おだちん(なつの思い出)

2017年08月29日

夏のオワリの香りがしますね。
大好物の桃が終わってしまって、イチヂクが今の楽しみです。

小学生低学年の頃、

夏休みはよく、母方の祖父母の家に姉妹で何日も泊まっていました。
自宅から車で1時間弱の、とてものどかなところ。
祖父母の家に行くと、大好きなものがいくつかありました。

土間があって、かまどがあって、土の匂いがする。
たんすの中から祖母が毎回一つだけ出してくれる小さなおもちゃ。
変わった形の定規だったり、かみふうせんだったり。
当時折り込み広告の定番だった、裏に印刷がされていない紙を使って、祖父が作っておいてくれる、らくがき帳。
祖母が、昔生命保険の外交員をしていた時の、
同じ、会社のマークばかりが並んだ、使っても使ってもなくならない大量のシール。
楽しみなものがたくさんあった。

お風呂には、祖母と一緒に入る。
"ゴボウさんゴボウさん、ダイコンさんになーれ"といいながら、身体をナイロンタオルでこすってくれる。
寝る時は、蚊取り線香をたいて寝ていた。
自宅では蚊取りマットだったから、なんかたのしくて、火をじっと見てたりした。
灰が元の形のまま落ちるのも楽しかった。

ちょっと固めの籾殻の枕や、
そして畳に布団を敷いて眠るのも楽しみだった。
私たち姉妹が寝る広間にかけてある達磨の掛け軸が怖くて、毎回泣いていたら、
私たちが泊まりにいくときには片付けられるようになった。

私は怠けもので、夏休みの宿題も溜めてしまう。
でも、元小学校校長だった祖父は優しく規則正しい人で、
自由研究を手伝ってくれたり、勉強を見てくれたりした。

小学校3年生の頃、祖父と一緒に、
その町の歴史を調べたことがあった。
小学校に行って、校長先生が話を聞かせてくれたり、歴史に詳しい人に話をきいて土器のかけらや矢じりをもらったり、
古代の歴史が好きだった私にはワクワクすることばかりだった。
城址を見に行ったときには、
単なる空き地になっているその場所から、
何か宝物が出てくるんじゃないかと、穴を掘ってみたけど、10センチくらいで挫折してしまった。



ある夏の日、妹と一緒に祖父母のうちにいた。

そして、なにか庭仕事を手伝ったりしたときだったとおもう。
祖父が、私と妹に、
「手を洗って、家の中に入ってなさい」
といったので、二人で手を洗って台所のちゃぶだいの前に座っていた。

すると、祖父がやってきて
「はい、おだちん」
と、私と妹に、
ガラスの器に入った、半分のイチジクをさしだしてくれた。
割れんばかりの大きなイチジク。
早速、いただきます、といって、妹と二人、手で皮をむいてイチジクを食べた。
(ちなみに"おだちん"という言葉を初めてきいたので、私はそれからしばらく何年か、おだちんというのは、「ごほうびにもらう食べ物のこと」だとおもっていた・・・)
イチジクは甘くておいしかった!

なんで、半分しかくれないんだろう、もっと手伝えば1個ずつもらえたのかなあ、と思った。

それで、祖父に、
「なんではんぶんずつなの?」
と聞いたら、
「庭の蔵の前にイチジクの木があるでしょう。一つだけ、なってたんだよ。」
といった。

私は大いに納得した。

それから毎日毎日、イチジクの木を見上げたけど、なかなか実をつけなかった。
実をつけてないイチジクの木のにおいも憶えてしまった。

たまに、祖父が切ってくれたように、半分に切ってみる。

いまだに、イチジクは私にとって"おだちん"で、
わくわくする果物だ。